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白血病の薬を止める-----断薬治験 [療養]

間質性肺炎のほかにある僕のもう一つの病気、白血病は長らく絶望的な病気の代表とされて来た。「愛と死を見つめて」なんていう小説がベストセラーになったこともあるし、映画でも病気の悲劇はかならず白血病だった。主人公は妙齢の美しい女性に限られていたのだが、実際には、僕のようなオジサンもかかる病気だ。血液がんだから、最初から全身に転移してしまっていて手術のしようがないというのが絶望的なことの理由だ。

そう思われて来たのだが、白血病の中でもCML(慢性骨髄性白血病)については、特効薬とも言うべき薬剤が開発され、もはや致命的な病気ではなくなった。

がん発生のメカニズムが一番よく解明されているのが白血病である。白血球細胞の22番染色体と9番染色体が一部交差してBCR-ABL遺伝子が生まれ、これががん細胞の元になる。がん化した白血球が無限に増殖していくのが病理なのだが、この細胞分裂の引き金になっているのが、チロシンキナーゼ(TK)という酵素分子であることがわかった。だから、チロシンキナーゼに結びついて活性を阻害する薬剤を投入すれば、がん白血球は増殖しなくなる。今までの抗がん剤のよううに、がん細胞自体を攻撃したりしない。チロシンキナーゼという分子を標的にした薬だ。

チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は、分子標的という新しい手法で開発された薬剤の一番の成功例だ。イマチニブ(商品名グリペック)が開発されて、奏効率90%以上の驚くような効果を示したのだから、CMLの治療は一変した。初めてがん細胞の増殖が完全に止められる薬が生まれたのだ。増殖が止まると、現存するがん白血球は寿命が尽きて死滅していく。僕の場合も、グリペックを飲み出して半年後には、検査してもがん遺伝子は全く見えなくなってしまった。グリペックの適応範囲をさらに広げた第二世代のTKIとしてタシグナやスプリセルが使われるようになった。

しかし、これで白血病が完治したわけではない。検査で見えなくなっても、実際はまだ残っている。白血球の数は10億もあるから、例え100万分の一になっても、まだ1000個あることになる。一個でもがん細胞があれば、白血病は復活するし、幹細胞と言われる親細胞は、骨髄の奥深く冬眠しており、手が届かない。だからCML患者は一生TKIを飲み続けなければならないのだ。

これが大きな問題で、TKIの値段は極めて高い。製造原価は一錠25セントなのだが、開発費がかかっているので、タシグナの場合一錠4738円で一日4錠が基本だから月額57万円、3割負担でも月額17万円になる。これが死ぬまで続くのではたまったものではない。日本には高額医療費制度があり、これで助けられている。安倍内閣が高額医療費制度の見直しなどと言い出しているのは本当に背筋が凍りつく思いだ。高額医療費が適用されるので、3ヶ月まとめて処方してもらえば、限度額X4回以外は返ってくる。それでも、一旦は薬局のレジで毎回50万円を支払うという凄いことになる。

保険が十分に機能していない、あるいは十分に「改革」されてしまっている国では、さらに深刻で、当然薬を飲み続けられない人が出てくる。副作用が強くて続けられない人もいる。その中で、大きな発見があった。原理的には、薬を止めれば、またがん細胞の増殖が始まるはずなのだが、中には白血球が増えない人がいたのだ。ある程度増殖はするのだが、増殖が止まってしまう人がいることもわかった。

そこで大規模な治験、stop gleevec projectが行われた。その結果、がん細胞が見えなくなって3年くらい経った患者のうち1/3`くらいは、TKIの投与を止めても白血病が再発しないことがわかった。なぜ、がん細胞が増えないのか?なぜ1/3くらいだけなのか? 謎は依然として解明されていない。それでも、高額な薬代がいらなくなる可能性があることは大きな希望だ。3年経ったら試みたいと考える人は多い。

僕は、グリペックの効きが良く、半年くらいでがん遺伝子が全く見えなくなったし、この状態で4年も薬を飲み続けたから、かなりがん細胞も減っていると思われた。そこで先生と相談の上で断薬を試みることにした。確率1/3に入れるかどうか、期待はしたのだが、結果的には外れた。一ヶ月あまりで、検査結果はあきらかながん遺伝子の増殖を見せるようになってしまった。これを期にグリペックからタシグナに切り替えて服薬を再開し、現在に至っている。タシグナを飲んでいる限り、がん細胞は検出限界以下を保てる。

再発する人としない人の違いは、どれだけがん細胞が減っているかより、NK細胞の活性が関係しているとか、いろいろ言われているが、まだ実際のところはわかっていない。

関連記事: 慢性骨髄性白血病(CML)の発症経過
関連ブログ: ブログ村・病気・肺炎

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コメント 8

CML患者

初めまして。
私もタシグナ処方されています。
タシグナはNK細胞の活性を期待できますか?
by CML患者 (2016-03-24 18:02) 

おら

タシグナにそういった作用はありません。NK細胞の活性度は、人によって異なり、何がNK細胞の活性度を高めるかなどは、全くわかっていないそうです。それがわかれば、僕ももう一度TKIを止めることにチャレンジしたいと思っています。
by おら (2016-03-25 14:50) 

east-de

突然お邪魔いたします。
私は骨髄増殖性腫瘍の真性多血症患者です。5%位が急性白血病に移行するとされている病気です。
診断当時は、CMLの疑いでした。
なので、最終診断が出るまでの間にCMLの猛勉強をしました。

JAK2遺伝子異常に対する分子標的薬を飲んでいます。
ルキソリチニブといいます。
でも、グリペックと違って断薬出来る様な効果はないとされています。

でも、グリペックも最初の頃は断薬出来る様な患者があらわれるとは研究者も思ってなかったというのを製薬会社のHPで知り、これなら私達の病気だって断薬可能になる人があらわれるのでは!と思っています。

そこで、1/3の断薬出来る人との違いはNK細胞の活性化に鍵があるかもしれないとの事だったので、思わずコメントさせて頂きました。

NK細胞の活性化に良い事とは何だと思われますか?
もし、何かご存知でしたら教えて頂きたくお願い致します。

私は腸活が大事なのでは?なーんて素人考えですが思っています。

長々とすみませんでした、、、
by east-de (2017-01-13 19:17) 

おら

上のコメントでも書いたように、NK細胞の活性化がどのようにして達成されるかは、皆目わかっていません。どこかに情報がないものかと探していますが、「免疫力を高める」といったぼんやりした情報しかなく、それも怪しげなものがほとんどです。
一般的には、やはり「健康に良い」ということを試みるしかないですね。さりとて、運動したり、ストレスをためないようにするのは、この病気の状態では、難しいですから悩みます。
by おら (2017-01-14 13:51) 

息子がCMLです

はじめまして。
息子の病院では断薬を相談したら断られてしまいました。
主様の病院はどちらにあるのですか?
もし差し障りがなければ教えて頂けますか?
by 息子がCMLです (2017-09-10 21:11) 

おら

お返事が遅くなりごめんなさい。僕は筑波大学付属病院にお世話になっています。断薬を試みるには寛解を長く維持していることが条件になりますが、CMLの治療は標準化されていて、どちらの病院でも判断に大きな違いはないと思います。
by おら (2017-09-17 16:00) 

息子がCMLです。

教えて頂きありがとうございました。
うちは14歳で発症し、おかげさまでグリベックですぐに寛解になり、6年になります。これからも参考にさせてください。ありがとうございました。
by 息子がCMLです。 (2017-09-19 10:25) 

おら

まだお若いですから先の負担が大変ですね。でもグリペックがあればとりあえず心配はないのですからゆっくり頑張りましょう。休眠幹細胞を引き出す研究も進んでいますから完治できる日もきっと来ると思います。
by おら (2017-09-20 09:22) 

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