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なぜ日本でPOC(携帯用酸素濃縮機)が普及しないのか [療養]

日本では多くの在宅酸素患者が家に酸素濃縮機を設置して、外出の時には酸素ボンベを使っている。酸素ボンベは使えば減って行くのでいつも気にしなければならない。携帯用酸素濃縮機(POC)があれば、いつでもどこでも、電源さえあれば酸素を使うことができる。欧米ではPOCがかなり普及して、いくつもの会社が使いよいPOCを作って競争している。アメリカの航空会社はついに、酸素ボンベの持込を禁止して、搭乗中の酸素は、POCに限ることにしたくらいだ。

POCは近年発展した医療機器で、日本が得意な機械・電子技術を使ったものである。世界のPOCマーケットはかなり大きいのだから日本企業の参入があってしかるべきものだ。ところが世界の数十社がひしめく中で、日本のシェアは、ゼロというのだから驚く。日本にはPOC産業がないのだ。

なぜ日本にPOCが無いのか?それは、保険制度の構造によるところが大きい。日本では、在宅酸素療法ということで、医療費として、酸素が供給されている。酸素の代金は病院に払い、決して酸素会社に払ったりしない。医療機器はまず、保険の枠組みに入ることが必須なのだ。毎月の費用は

指導管理料    2,500点
酸素濃縮装置  4,000点
酸素ボンベ     880点
同調器       300点

で合計76800円となり、この3割23400円を患者が負担することで「治療」をうける。液体酸素を用いる場合は親機が4000点、子機が880点になる。費用は「治療」に対して支払うのだから、何本ボンベを使おうが、旅行先にボンベを届けてもらおうが、機械のメンテナンスをやろうが、関係なく、同じ「治療」だから全て一律だ。POCの値段が大体25万円くらいであることを考えると月76800円というのは、法外に高いから、会社の利益は大きい。しかし、メンテナンスや非常用のボンベなどを含めると、患者が払う23400円は、保険適用外になっている諸外国に比べて高いものではない。病院は治療費に加えて25000円の収入になるから潤う。酸素会社、病院、患者ともにうまく納まっているので、制度は固定化されてきた。

すでに出来上がっているこの医療点数の枠組みに、POCを付け加えることは難しい。濃縮機とボンベの機能を兼ね備えるPOCを導入すれば合計の点数はむしろ減るだけだ。酸素会社にとってPOCの導入は営業上意味がない。ましてや、実質上在宅酸素を請け負っている会社は、ボンベへの充填設備を主体とする酸素会社なのだ。POC導入で酸素ボンベがいらなくなったのでは困ってしまう。

多くの国では眼鏡などと同じく医療費外の機材となっているから、安さ、便利さの競争になり、結果的にPOCへのシフトが起こった。日本では、患者が選ぶのではなく、医療機関が選ぶのだから、当然、便利さよりも信頼性が重視される。こういうことで長らくPOCの開発には、医療機関も、酸素会社も積極的ではなかった。医療機器として認可もされなかったから、禁止と同じことだ。もちろん保険適用がないのでは、機材メーカーも開発のしようがない。

保険適用することで、どのような人にも在宅酸素を保障する現在の制度は、悪いものではないのだが、硬直した医療点数構造がPOCの普及を阻んで来た。しかし、諸外国の趨勢はあきらかにPOCに向かっている。外交圧力に屈して、厚労省もついに今年から外国製のPOCに保険適用を認めた。原理的には設置型の濃縮機を携帯用濃縮機に置き換えることが可能だ。患者側からの要求が強くなれば、酸素会社もPOCを導入せざるを得なくなる。これを機会に国内メーカーのPOC開発を期待したい。

POC開発の現状はと言えば、テイジンとフクダ、コイケが手がけているようだが、いずれも酸素ボンベに置き換わる小さなもので、ボンベをもっと軽くすることに重点がおかれている。液体酸素への対抗策らしい。長時間使ったり、就寝時に連続使用したりは想定されていないものだ。望まれるのは、設置型の濃縮機を携帯用にする開発なのだが、これにはまだ手もついていないらしい。

問題は、患者側にもある。日本では、酸素を持って外出する人が非常に少ない。病院では見かけるが、買い物や旅行で、酸素を持った人に出会ったことはほとんどない。カニューラをつけていると奇異な目で見られることも多い。酸素会社の人の話では、在宅酸素の人の多くは、引きこもってしまったり、寝たきりに近いのだそうだ。元気なHOT仲間が、もっと町にでなければいけない。POCの需要があることを示して行かなければならない。

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コメント 6

miz

初めまして。
アメリカではキャンピングカーなど大きめの車が主流で、電源を取りやすいのではないでしょうか?
エコで小型な日本車で300Wも取れるかどうか。
by miz (2016-02-04 01:29) 

おら

僕はいつもホンダ・インサイトで使っていますが、問題ありません。レンタカーでも、いろいろ試してみて大丈夫でしたが、軽自動車はまだやってみたことがありません。300Wの必要はなく、12Vの電流は8Aですから96Wですね。
by おら (2016-02-04 09:47) 

miz

軽度の方なら意義はありますが、流量が多い人はボンベじゃないと外出は無理です(´・ω・`)
全く新しい方法で省電力で濃縮酸素を精製する技術待ちの状態だと思います。
by miz (2016-02-04 23:24) 

おら

確かに現在のPOCでは大流量に対応出来ませんから、重度の人には難しいですね。しかし、ここ数年でかなり省エネが進みました。例えば僕の使っている機種は、同調6L/min、連続3L/minまで対応していますから、多くの人には、これで足りると思います。6L/min以上の人は、ボンベでもなかなか外出は難しいのではないでしょうか。すぐにボンベが空になりますからね。
by おら (2016-02-05 08:36) 

miz

連続3Lだと車載したいですね。
動作時はボンベ使って、車乗っている時は携帯酸素濃縮器使えば、行動の幅が広がりますね。(^^)
by miz (2016-02-05 14:30) 

おら

おっしゃる通り、車を降りて歩くときは、やっぱりボンベを担ぐ方が身軽です。大きな車輪がついていますから、カートで引っ張れば苦にはなりませんが、連続使用できるPOCは、結構重いです。
by おら (2016-02-05 22:49) 

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