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りんご、そして歌 [日常日記]

高校時代の友人がリンゴを一箱送ってくれた。箱の中には青森産の美しくも赤いリンゴがきっちりと並んでいる。そう言えば近年あまりリンゴを食べた覚えがない。果物の種類がいろいろと増えて、りんごを食す機会が減ってしまったのだろう。噛むと甘酸っぱい香りが飛び散り、なぜか懐かしいと感じる味がした。

僕らが子供のころ、リンゴ、みかんと柿は一番身近な果物だった。みかんは、こたつに入って家族で食べるもの、柿は友達と木によじ登ってかじるものだ。リンゴはどうだろう。僕の場合、母親のそばに座って、りんごがむけるのを心待ちにしていた記憶につながる。母の手元から長くのびるリンゴの皮を見て、切ってもらい、やがて僕の口に入るであろうその味を思い浮かべていた。

リンゴというのは、小さい子供が自分でむけるものではない。だから母につながる郷愁があるのだ。連れ合いの友達に音楽指導をしている人があって、少年院で指導した時に、ある子にリンゴを食べさせてやったことがあるそうだ。不幸な生い立ちで不良と呼ばれるようになっていたその子は、リンゴをむいてもらったことに感激して泣き出してしまった。りんごは、母の愛情を感じることができる果物であり、幸せな家庭の象徴であるかも知れない。

赤いりんごをながめていて思い出すのは藤村の詩だ。国語の教科書に出てきたから多分覚えている人も多いだろう。
まだあげそめし前髪の、林檎の元に見えしとき、
前にさしたる花櫛の花ある君と思いけり、
やさしく白き手をのべて林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に人恋そめし初めなり
実はこの先もあるのだが、ここまでしか覚えていない。この先は余計ななような気がする。「薄紅の秋の実に」と目先を転じるところの新鮮さがいつも気持ちを引き付ける。たしかにリンゴの甘酢っぱさは初恋の味にふさわしい。そういえばリンゴの唄が多い。他の果物はそんなにも歌われていない。
「私は真っ赤なリンゴです。お国は遠い北の国.........」
「赤いリンゴに唇よせて、だまってみている 青い空.......]
「りんごの花ほころび 、川面に霞たち 君なき里にも.....」
「リンゴの花びらが、風にちったとさ.......」
「リンゴ畑のお月さん今晩は、噂をきいたら...」
「おぼえているかい 故郷の村を........都へ積み出す 真赤なリンゴ.....」
「ひとつのリンゴを君が二つに切る 僕の方が少し大きく切ってある.....」
「若葉かおる五月の庭 リンゴの花咲き、流れてくる乙女たちの......」
このところ腰が痛くて動きの取れない連れ合いに付き合って家で一日を過ごすことが多いのだが、たわいない話に終始する。戯れに挙げて見たらきりがないくらいに次々と出てくる。おもわず口ずさんでしまう歌の数々だ。もちろん大声で歌うわけではない。僕はいつのまにか歌うことに気恥ずかしさを感じてしまうようになっている。
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