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「がん」食事療法への疑問 [療養]

「がん」については、まだわかっていないことが多い。だからこそ日本人の死因第一位でありながら、確実な治療の道が開けていない。手術、抗がん剤で救われないから、民間療法に頼りたくなる。なかでも食事療法は科学的とも言える根拠が示され、多くの人が多少なりとも実践することになる。本人や周りの人間にとって、出来ることはこれくらいしかないという思いが根底にある。

「がんは食事療法で治る」「免疫力でがんを治す」といった本がいくつも出版され、かなり読まれているようだ。一般的には適正な食事は健康の元であるから、間違ったことが書いてあるわけではないと思っていたのだが、読んで見て逆に疑問を感じるようになった。リウマチ、間質性肺炎で免疫抑制剤を飲んでいる身としては、様々な免疫作用を「免疫力」などというわけのわからない概念でひとくくりにしてしまうことにも抵抗がある。「女子力」などと同じで、中身は千差万別のはずなのだ。

日本のがん死亡率は年々増えているが、ヨーロッパ、アメリカなどでは逆に減っている。これはアメリカなどの先進医療は必ず食事療法を取り入れているからだと、食事療法の重要性を冒頭で強調する。食事療法に頼るのが先進的なのだという主張だ。僕は、まずここで引っかかってしまった。

アメリカ人が健全な食生活をしているなどということはあり得ない。ジャンクフードと不摂生による肥満が極度に蔓延して、心臓麻痺で死ぬ人が増えて、がんになる前に死んでいるのが現実だ。医療制度が不備で、富裕層には手厚くとも貧困層は十分な医療を受けられず、がん年齢まで生き延びられない。日本にがんが増えているのは、老齢人口が増えていることが第一の要因なのだ。日本は長寿国として知られている。

他の見方もあるだろう。がん死亡率の要因を絞り込むことは難しいが、圧倒的に不健全な食生活をしているアメリカ人より、むしろ日本人のがん死亡率が高いことは、食事はあまりがんと関係がないということではないだろうか。不健全な食事のほうががんにならないとまでは言わない。

「健康に良い」と「がんが治る」の間には大きな隔たりがある。これらの本は、この二つをごっちゃにした議論に陥っている。栄養バランスの取れた食事が健康に良いことはわかっているが、だからといって「がんが治る」わけではない。「健康に良い」を「がんが治る」にすりかえてしまうところがこれらの本の大きな問題だ。

あれが良い、これが悪いと細々した注意が述べられているが、がんと関係することは2つしかない。それは、喫煙と肺がんの関係、塩分過多と胃がんの関係である。これ以外は、単に「一般的に健康に良い」だけである。

栄養学的には玄米のほうが白米よりも優れている。胚芽にはビタミンBが含まれ、これが不足すれば確実に不調をきたし、脚気になる。現在では他の副食物からビタミンBが摂取できるから、あまり強調されないが、かつては7分つきなどを食べるのが普通だった。しかし、玄米を食べればがんが治るわけではない。どう統計を取っても、玄米食のほうが「がんが治る」という結果は明確に出てこない。

食事療法でがんが治ったという事例がいくつも紹介されているが、実は食事によらず直った実例も同じくらいある。理屈の上でも健康食のほうが治りやすいとは考えられるが、その差は確認されていない。抗がん剤の種類とかストレスとか他の要素の影響があって、明確な比較が難しいからだという。逆に言うと、食事療法の効果はこういったもろもろの効果の陰に隠れるほど小さいものであることが実証されていると言うことだ。

がん患者であれ健康人であれ、健全な食事をすることは良いことだ。しかし、「がんが治る」というすり替えを行うと半ば宗教的に、健全な食事の内容がゆがめられてしまうことがある。「チキンは良いが牛肉は絶対食べてならない」「イワシはよいが、マグロはいけない」「洋食はダメで和食でないといけない」などと言うレベルになると、もう、がんとの関係ではなんの根拠もない。もちろん、チキン主体で牛肉は控えめにするくらいなら、否定することもないことだ。多分そのほうが健康に良いだろう。

「洋食はダメで和食でないといけない」になると、むしろ害になる。それでは冒頭のアメリカの方ががん死亡率が低いということが説明できない。塩気とマッチするのが米の特性であり、米を主体とした和食はどうしても塩分が多くなる。化学調味料やダシにはナトリウムイオンが多く含まれ、結果的には塩分と同じだから、毎日味噌汁を飲めば、それだけで必要塩分量を越えてしまう。しょうゆ味、ミソ味、これらは全て塩分を基本としたものだ。

動物性たんぱく質の取りすぎなどといわれるが、必要量の5倍も10倍もとるわけではない。しかし、日本人は必要塩分量の10倍も取っている。動物性たんぱく質とがんの関係は立証されていない。塩分は発ガンが立証されているのだから訳がちがう。農薬とか保存料などで発がん性のものもあるが、これらは法律で量が規制されている。塩分は唯一規制されていない発ガン物質なのである。

野菜中心の食事も問題がある。野菜には、一見味がない(本当は味があるというのが正しい)から、いきおい味付けをしてしまう。野菜の煮物には塩味が欠かせない。大量の生野菜は大量のドレッシングになる。無理に味付けを控えた結果、おかずに飽きたらず、漬物やタラコなどに依拠して米を食べるのでは意味がないことは明白だろう。ステーキは胡椒を振っただけで塩分なしでも十分美味しいという違いは大きい。タレをつけるなどというのは焼肉の発想であり、ステーキではない。

食事の基本はおいしく食べることだ。食事療法を「お百度まいり」や「水ごり」のように、自分の体をいじめることが、病気回復につながるといった迷信にしてしまってはいけない。とりわけ、子どもがいる家庭では、家族揃って楽しい食事の範囲内で、健康に気をつける食事をすべきだろう。食事療法が家庭のストレスになっても強行するほど確実なものではないことは明らかだ。

もうひとつ、なぜかこれらの本には全く書いてない事実を挙げておこう。それは日本でも、30代、40代については、がん死亡率そのものが年々低下しているということだ。がん治療に対して、早期発見で見かけの5年生存率を上げただけだという批判があるが、これは当たらない。まだまだ不十分だが、医療は少しずつ進歩しているのだ。がんが治せないのは医療の限界を示すものだなどと言う悲観的結論は早とちりである。
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コメント 6

tati

おら様 初めまして。
同感です。
補助であるべき療法がいつの間にか主療法になっている。
その行先は悪化させ、信心が足りないからだで終わるような気がします。
現実に何人か見てきましたが止められなかったのが残念です。
失礼します。


by tati (2016-04-29 18:52) 

おら

tatiさん、
コメントありがとうございます。やはり、そういう人もいるのですね。信じて頑張っている人の反発を挑発するような表現をすると真意が伝わらないと思い、末尾を書き換えました。
北海道ならではの自然に囲まれた暮らしうらやましい限りです。
by おら (2016-04-30 09:06) 

お名前(必須)

こんにちは。
30代、40代が減少してるのはインターネットの活用が関係してるのではないでしょうか?

ずっと入院していて気づいた事は、癌だろうと間質性肺炎だろうと認知症だろうと誤嚥性肺炎が多いという事です。
食べる力は、硬い物や食べる量が多い、喋る事で鍛える事ができます。
誤嚥したら死へのカウントダウンが始まってしまうのに、知識がないのか、入歯だから歯磨きを拒否する人が多く見られます。
by お名前(必須) (2016-04-30 23:53) 

おら

インターネットによる知識の増大で早期発見につながることもあるでしょうね。早期発見による治療には、やはり効果があり、若年でがん死する人は減ったようです。
しかし、他の病気の治療が進んだため、高齢まで生きのびて、がんに罹る人が増えた結果、全体としては、がん死亡率は少しも減っていないという統計になるのだと思います。
食べることはすべての基本で、野生動物に虫歯がないのは、虫歯になった動物はすぐに死ぬからだそうです。誤嚥は重大問題ですね。
by おら (2016-05-01 00:28) 

tati

おら様
先のコメントを記事にしました。
最後に「おら様」のお名前を無断使用させて戴きました。
お許しください。
by tati (2016-05-01 17:31) 

おら

はいどうぞ。
by おら (2016-05-03 11:01) 

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